労災特別加入

イラスト:サラリーマンと車

 労災保険は、もともと労働基準法の適用労働者の業務災害又は通勤災害に対する保護を目的にした制度ですので、労働者でない方(事業主、自営業者等)の業務中の災害又は通勤災害については、本来的には保護の対象にしないという建前です。

  しかしながら、これら労働者でないものの中には、一部ではありますが、業務の実態や災害の発生状況などから見て、労働者と同じように労災保険によって保護するにふさわしい方たちが存在することも否定できません。 また、労災保険の適用範囲は、属地主義により、日本国内に限られており、国内の事業場から国外の事業場に派遣され当該事業に従事する方は、たとえ労働者であっても、わが国の労災保険の保護が及ばないことになっています。

  労災保険では、こうした本来労災保険の適用がない方のうちの一部について、労災保険による保護を図ることができる制度を設けています。  この制度を「特別加入制度」といいます。


  特別加入制度は、強制的に加入するものではなく、任意に加入する制度です。労災保険の加入を希望する特別加入者は、労働保険事務組合に労働保険の事務委託を委託した場合、 事業主・その法人の役員・家族従事者で従事する業務の実態から、 労働者に準じて保護することがふさわしいと労働基準局長が認め、承認をした場合は【労災保険の特別加入】をすることができます。
 当事務所は神奈川SR経営労務センター(労働保険事務組合)の会員ですので、当事務所を経由して事業主、一人親方等も労災保険に特別加入することができます。特別加入には以下のようなメリットがあります。

  • 国の保険だから安心。ケガの際も治療費は全額補償。
  • 休業が4日以上にわたるときに休業4日目より1日につき給付基礎日額の80%が支給されます。
  • 労災法に定める障害補償、傷病補償、遺族補償、葬祭料、介護補償が受けられます。
  • 労働保険料の額にかかわらず、3回の分割納付が可能になります。

特別加入制度の種類

  当事務所で取扱う特別加入制度の対象となる方は、下記の4種類となります。

(1)中小事業主

イ)300人(金融業、保険業、不動産業、小売業の場合50人、卸売業、サービス業の場合100人)以下の労働者を使用する事業主及びその家族従事者
ロ)法人その他の団体の役員であるときは代表者以外の役員のうち労働者でないもの

(2) 一人親方

一人親方その他自営業者であって下記の事業を行うもの及びその家族従事者

 イ)軽自動車を使用して行う貨物運送の事業
 ロ)建設の事業

(3)特定作業従事者

イ)一定規模の農業(畜産、養蚕を含む)における特定の危険有害業務従事者
ロ) 厚生労働大臣が 定める種類の機械を使用して農作業に従事するもの
ハ) 国または地方公共団体が実施する職場適応訓練従事者
ニ) 家内労働法の適用のある家内労働者とその補助者で労災保険法施行規則第46条の18第3号で定めた作業に従事するもの
ホ) 労働組合等の一人専従役員
ヘ) 介護作業従事者

(4)海外派遣者

イ)国際協力事業団等開発途上地域に対する技術協力の実施を業務とする団体から派遣されて開発途上地域で行われている事業に従事する者
ロ)日本国内で行われる事業(継続事業に限る)から派遣されて海外支店、工場、現場、現地法人、海外の提携先企業等海外の事業に従事する労働者
ハ)日本国内で行われる事業(継続事業に限る)から海外支店、工場、現場、現地法人、海外の提携先企業等海外で行われる300人以上(金融業、保険業、不動産業、小売業にあっては50人、卸売業、サービス業にあっては100人)以下の労働者を使用する事業に代表者等として派遣されるもの

イラスト:ビルイメージ


ここでは代表的な中小事業主と一人親方についてもう少し詳しくご説明いたします。

1.中小企業主等の労災保険

特別加入時の健康診断書の提出

 下表の業務に従事をした経歴のある方は、加入の際に健康診断書を提出します。

特別加入予定の業務の種類
特別加入前に従事した通算期間
イ.粉じん作業を行う業務
3年
ロ.身体に振動を与える業務
1年
ハ.鉛業務
6か月
ニ.有機溶剤業務
6か月

*健康診断の結果か判明するまでは、承認を保留されます。
*健康診断に要する費用は国が負担します。

特別加入者の労災保険料

 特別加入者の保険料については、保険料算定基礎額(給付基礎日額に365を乗じたもの)にそれぞれの事業に定められた保険料率を乗じたものとなります。
 なお、年度途中において、新たに特別加入者となった場合や特別加入者でなくなった場合には、当該年度内の特別加入月数(1ヵ月未満の端数があるときは、これを1ヵ月とします。)に応じた保険料算定基礎額により保険料を算定することとなります。

※給付基礎日額とは、労災保険の給付額を算定する基礎となるものです。
 特別加入を行う方の所得水準に見合った適正な額を申請していただき、局長が承認した額が給付基礎日額となります。

特別加入保険料算定基礎額表

給付基礎日額A

保険料算定基礎額

B=A X 365日

年間保険料

年間保険料=保険料算定基礎額X保険料率

(例)

建設事業(既設建築物設備工事業)の場合

保険料率 14/1000

20,000円
7,300,000円
102,200円
18,000円
6,570,000円
91,980円
16,000円
5,840,000円
81,760円
14,000円
5,110,000円
71,540円
12,000円
4,380,000円
61,320円
10,000円
3,650,000円
51,100円
9,000円
3,285,000円
45,990円
8,000円
2,920,000円
40,880円
7,000円
2,555,000円
35,770円
6,000円
2,190,000円
30,660円
5,000円
1,825,000円
25,550円
4,000円
1,460,000円
20,440円
3,500円
1,277,500円
17,878円

*加入・脱退のときの保険料は月割りになります。 
*年度の途中での給付基礎日額の変更はできません。

2.一人親方等の労災保険

一人親方の範囲

  • 一人親方とは、常態として労働者を使用しないで建設事業(土木・建築・その他工作物の建設・改造・保存・修理・変更・破壊もしくは解体又はその準備の事業)従事しているもの及び軽自動車を使用した貨物運送業に従事しているものに限ります。(法人の事業主を除きます。)
  • 大工・左官・とび・石工・建具師等が該当しますが、建設業に関係する事業に従事する方であれば職種についての限定はありません。
  • 一人親方の住所(居住地)が東京都・茨城県・栃木県・群馬県・埼玉県千葉県・神奈川県・山梨県・静岡県の方に限ります。 

特別加入時の健康診断

一人親方等の特別加入時の健康診断については、上記の中小事業主等の特別加入時の健康診断とまったく同じです。

一人親方等の労災保険の保険料率

希望をする給付基礎日額に、第2種特別加入(建設業)に適用されて いる保険料率を乗じた額です。

特別加入制度の注意点

  1. 複数の事業のうちの一つの事業についてのみ特別加入したときは、他の事業の仕事中に労災事故に遭った場合は労災保険の補償を受けることが出来ません。
  2. 労災保険特別加入は、原則として包括加入方式ですので、その事業に従事している全ての会社役員、家族従業員(一般労働者と同様の取扱いをしている者を除く)を特別加入させる必要が有ります。但し、非常勤・高齢・傷病療養中などの理由で、ほとんど労災保険対象の業務に従事していない者は特別加入対象から除外することが出来ます。
  3. 特別加入者の賃金日額に相当する給付基礎日額は、3,500円?20,000円の範囲で選択することが出来ますが、当事務所での取扱いは5,000円以上に限らせていただきます。
  4. 労災保険に特別加入しますと、仕事中のケガだけでなく、通勤途上の(交通事故などによる)ケガに対しても補償が受けられます。但し、予め労働局に届出した業務内容以外の業務を行なっていた時に労災事故に遭った場合は、原則として労災保険の補償を受けることが出来ません。
  5. 事業主の業務災害については、原則として一般労働者と一緒に作業していた時の事故でないと労災認定を受けることが出来ません。特に、会社の所定労働時間外、又は所定休日に仕事をする時は要注意です。
  6. 会社の所定労働時間内に起きた事故であっても、それが事業主の立場において行なう事業主本来の業務遂行中に起きた事故(又は事業主本来の業務に起因して起きた事故)の場合は、労災認定を受けることが出来ません。